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『スマホを落としただけなのに』感想と解説:実はヒッチコック的サイコスリラー

初代iPhoneの発売が2007年。それから日本で「スマホ」という言葉が普及するまで、さほどの時間はかからなかった。

はじめはスクリーンに写るスマホに違和感を覚えて仕方がなかったが、それも束の間。いつの間にか映画の風景に溶け込んでしまったようだ。

そして2018年、ついに「スマホ」は映画の主題にまでなってしまったのである。

もちろん、情報社会を扱った映画としては『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)から『her/世界でひとつの彼女』(2013年)にいたるまで枚挙に暇がない。

だが、近年の日本映画としては比較的な大胆なテーマ設定。きっと取り上げるに値するはずだ。

というわけで、今回は映画『スマホを落としただけなのに』の紹介である。

『スマホを落としただけなのに』とは


『スマホを落としただけなのに』は2018年の日本映画である。

原作は志駕晃によるデビュー小説。この作品は『このミステリーがすごい!』大賞で最終選考まで残り、加筆修正の後に出版された経緯がある。

監督は中田秀夫。『リング』や『劇場霊』などで知られるJホラーの旗手といえる人物だ。

主演は北川景子千葉雄大。その他に成田凌田中圭なども出演している。

興行収入19億円のヒット作となり、2020年には続編『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』の公開も待たれている。

続編は引き続き中田秀夫がメガホンを取る。主演の千葉雄大に加え、ヒロインとして元乃木坂46の白石麻衣が出演するという。

ちなみに舞台化も決定(2020年3月~)

映画の大ヒットを受け、舞台化も決定したようだ。

脚本と演出は劇団扉座の横内謙介が担当。主要キャストとして、ジャニーズの辰巳雄大(ふぉ~ゆ~)と浜中文一、乃木坂46の早川聖来らが名を連ねている。

2020年3月20日より、東京・紀伊國屋サザンシアターと大阪・松下IMPホールで公演予定。気になる方はぜひチェックをして欲しい。

『スマホを落としただけなのに』あらすじ

商社で働く富田誠は、かつての同僚である稲葉麻美と順調に交際を続けていた。

彼女へのプロポーズも考えていた折、移動中のタクシーでうっかりスマホを落としてしまう。
幸いなことに、拾い主が麻美の電話に出たことで、無事にスマホは誠のもとへ戻ってくるのだった。

だが、その時から誠と麻美の周辺で不自然な出来事が起きるようになる。クレジットカードの不正利用、身に覚えのないSNS投稿、そして謎のストーカー。

その頃、神奈川の山中で若い女性の遺体が発見されていた。その数は5人にのぼり、県警は連続殺人事件として特別捜査本部を設置する。

県警の警部補である毒島は、新人刑事の加賀谷とともに事件を追うのだった。

一方、どこかのアパートの一室では、不気味な男がパソコンの画面を覗いている。

そう、この男こそが誠のスマホを拾った張本人であり、一連の殺人事件の犯人なのである。

ひそかに情報を抜き取った彼は、いまや麻美のもとに忍び寄ろうとしていた……。

『スマホを落としただけなのに』感想と解説

キャッチーなタイトルだが、別に企画倒れの映画ではない。身近な「スマホ」を現代社会と上手く絡めた点で、しっかり内容も伴った映画といえる。

設定を詰め込みすぎという批判も一部には見られたが、むしろその点を評価したい。

たしかにベタな設定かもしれないが、不用意に使っているわけではないだろう。

スマホは私たちの分身

映画の冒頭でスマホを落とす主人公は、途端に無能な若者になり果ててしまう。

取引先への連絡もままならなくなる彼の哀れな姿を目にすれば、誰だってスマホが自分の肉体の一部であることに気がつくだろう。

それを象徴するのが、事件の犯人による女性の殺害シーンだ。ここでは女の下腹部を刺す光景と、その女のスマホを破壊する光景とが交互に写し出される。

あたかも肉体=スマホであるかのように描かれることで、映画のテーマが強調されるというわけだ。

ヒッチコック的サスペンス

この殺害シーンにはもうひとつ、ヒッチコック『サイコ』へのオマージュも込められている。有名なシャワールームでのシーンを彷彿とさせるものなのだが、それだけではない。

犯人がロングヘアである点や、家庭環境のトラウマを背負っている点までよく似ている。また、正体を別の人物とミスリードさせる手法も、ヒッチコック的なサスペンスのお手本といえるだろう。

伏線も丁寧に張られており、中田秀夫監督の周到さをうかがい知ることができるはずだ。

『スマホを落としただけなのに』の次はこの作品:『何者』

「スマホ」も現代的なモチーフだが、こちらは「就活」をテーマにした作品だ。

朝井リョウによる直木賞小説を原作とした、2016年の日本映画『何者』。

監督は劇団「ポツドール」を主宰する三浦大輔佐藤健有村架純二階堂ふみ菅田将暉岡田将生山田孝之という豪華キャストも話題となった。

就活を控えた大学生5人が、それぞれの悩みを抱えながら対立し、やがて自分を見つめ直していく物語である。