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ランニングから遠く離れて、今日はアニメーション映画の話。

アニメ大国と呼ばれる日本だけど、実のところフランスも負けてはいない。

なにせフランスには固有の漫画文化、いわゆるバンド・デシネの伝統がある。

日本人にもお馴染み『タンタンの冒険旅行』を描いたエルジェや、大友克洋や宮崎駿に影響を与えたとされるジャン・ジロー(メビウス)など、いずれも芸術性の高い作品ばかりだ。

近年では日本の漫画文化とのコラボレーションも行われるなど、新たな動きも見せているらしい。

そんなバンドデシネの伝統を受け継いだ、フランスのアニメーション作品。

芸術性が高くエスプリに富んだ作風には、きっと虜にされる人も多いだろう。

そんな人に観ていただきたいのが、2019年の長編アニメーション『失くした体』である。

カンヌの批評家週間で大賞を獲得

簡単に概要を説明しておこう。

『失くした体』の監督はジェレミー・クラパン。これまで短編作品こそ発表していたが、長編作品は本作が初めてとなる。

2019年のカンヌ国際映画祭批評家週間で上映され大賞を獲得。これはアニメーション映画では初の快挙である。

あらすじとしては、切断された右手が自分の体を求めてパリの街を彷徨う話だ。

過去と現在とが交錯する映像美

この右手というのがなかなかお茶目で、ネズミに襲われかけたり、赤ん坊をあやしたりと忙しい。挙句の果てに、傘と一緒にパリの空を遊覧するという離れ業。

まさにインディアナ・ジョーンズも仰天の冒険なのだが、この話の合間を縫うようにして右手の記憶がフラッシュバックされるのである。

実のところ、作品の主軸はこの回想、右手の主である青年ナウフェルの半生を描くことにある。

幼くして両親を失い、孤児となったナウフェルが右手を失うに至るまでの過去が綴られるのだ。

とりわけナウフェルの幼少期はモノクロームで描かれており、白と黒とのコントラストが素晴らしい。

「失われた手」ではなく『失われた体』であることの意味

この作品は右手を失ったナウフェルの物語だけど、間違ってもそのタイトルは「失われた手」ではない。

あくまで主役はナウフェルの手であり、タイトルは『失われた体』なのだ。

なぜだろうか?

それは『失われた体』というのが、「失われた同一性」を取り戻す物語にほかならないからだ。

幼くして両親を失ったナウフェルには、自分が自分自身であるという同一性が欠けている。

本来であれば、この同一性は親という「他者」と対話することによって初めて成立するものであるが、孤児となったナウフェルにはその経験がない。

だから彼はあの出来事(ネタバレになるから書かないけど)によって身体を引き裂かれたのである。

ナウフェルの右手は失われた「他者」の代替物として、その両親の記憶を背負っている。

彼が自身の記憶と向き合い、私たち観客も彼の記憶と向き合い、あらためてナウフェルの同一性が獲得されたそのときに、映画は大団円を迎えるのである。

フランスアニメーションならこちらの名作も

折角なので、フランスアニメーションの傑作を紹介しておこう。

『イリュージョニスト』(2010年)

舞台は1950年代のパリ。初老の手品師タチシェフは、場末のバーで時代遅れの手品を披露しながら細々と暮らしていた。ある日、スコットランドの離島にたどり着き、そこで貧しい少女アリスと出会う。タチシェフを魔法使いだと信じこみ慕うアリスと、生き別れた娘の面影を重ねるタチシェフ。2人はエジンバラで一緒に暮らし始めるが……。

監督はシルヴァン・ショメ。『ベルヴィル・ランデブー』という作品もおすすめだけど、ここでは割愛。

この『イリュージョニスト』は、映画監督ジャック・タチの遺した脚本がもとになっている。哀愁漂う老人のキャラクターがいかにもタチらしい。

『キリクと魔女』(1998年)

キリクの生まれた村には、魔女カラバの恐ろしい呪いがかけられていた。泉の水は枯れ、魔女を倒しに出かけた男たちはみな食われ、残ったのは老人と子供だけ。村を救うべく、キリクは賢者の住むという《禁じられたお山》へ旅に出る。小さな身体に、大きな好奇心を秘めて……。

フランスアニメの金字塔。アニメーション映画としてはフランス歴代興行収入1位の作品である。

監督はミッシェル・オスロ。アフリカが舞台であり、民族的な雰囲気が独特の作品。

『アズールとアスマール』(2006年)

中世イスラムを舞台に、人種も身分も違う2人の青年の冒険と成長を描く。領主の子である青い瞳のアズールと彼の乳母の子である黒い瞳のアスマールは、まるで兄弟のように育てられた。やがて成長したアズールは、幼い頃に乳母に聞かされた子守歌の国を訪れるが、そこでは彼の持つ青い瞳は不吉なものとされており……。

同じくフランスアニメの巨匠、ミッシェル・オスロの作品。『キリクと魔女』と本作はスタジオジブリが日本語版を制作している。

こちらは中世イスラムが舞台の作品。