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ポン・ジュノ監督の短編映画を解説:キャリアの初期から続く社会への視線

『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー監督賞に輝いたポン・ジュノ。彼がこれまでに監督した長編作品は7本ですが、それ以外にも短編作品を7本制作しています。これが滅法面白い。本人も短編には強いこだわりがあるようで、長編作品の合間を縫うように発表しています。

ということで、今回はDVDで鑑賞できる、ポン・ジュノ監督の短編作品を一挙紹介します。

ポン・ジュノ監督の短編作品

「白色人」(1993年)

延世大学4年の時、所属する映画サークルの仲間とともに制作した作品です。ホワイトカラーの男がアパートの駐車場で一本の指を拾い、家に持ち帰って大切に愛でるという奇妙な話。そのフェティッシュな描写は、どこかルイス・ブニュエル作品を思い出すようでもあります。国内の短編映画祭に出品されましたが、当時の観衆にはあまり理解されず、その30%は「これって何の映画?」というような状態だったそうです。

その一方で、監督の社会に対するまなざしが多分に表現された作品でもあります。冒頭から映し出されるテレビには大衆的なコマーシャルと、政治家の資産を報じるニュースが流れます。そこはマンションの高層階。生真面目に見える主人公の男ですが、水槽の金魚にタバコを押し当てるような残忍さも秘めています。

そんな彼が偶然拾った指、後に近くの工場で労働者が切断したものであることが判明します。男によって気ままに弄ばれる指を見ていると、ここで描かれている「フェティシズム」が、単なる性的嗜好ではなく、資本主義社会における「物神崇拝」的性格を意味しているように思えてなりません。

事実、車の故障によって徒歩での帰宅を余儀なくされた男は、貧困街の狭い路地を通ることになります。トタン屋根に暮らす子どもたちと高台のマンションが対比される映像は、韓国が抱える格差社会の構図を浮き彫りにし、後の『パラサイト 半地下の家族』を導いていくのです。

「フレームの中の記憶たち」(1994年)

韓国映画アカデミーの課題として製作された作品。わずか5ショット、5分間という短い映像のなかに、いなくなった犬を探す少年のあどけない感情が描かれています。

犬がいつでも帰ってこれるように、玄関の扉を開けたままにする少年のいじらしさ。ポン・ジュノの愛犬精神は、デビュー作『ほえる犬は噛まない』で再度の登場を果たすことになります。

「支離滅裂」(1994年)

韓国映画アカデミーの卒業制作。オムニバス形式で30分の作品が構成されています。

エピソード1「ゴキブリ」はスケベな教授の奮闘劇。女子学生へのよからぬ妄想に浸る彼は、ヌード雑誌を教授室に置いたまま講義に出席します。ところが、うっかり女子学生を教授室へと向かわせてしまい……雑誌の存在に気づいた教授が、慌てて彼女を追いかけます。

エピソード2「朝の路地」はジョギングをする男の逃走劇。勝手にかっぱらった牛乳を新聞配達の青年に渡し、泥棒の濡れ衣を着せて隠れる男。青年に腹を立てた家主は、玄関先に「朝鮮日報お断り」の張り紙を出すことに。新聞社を実名で出すあたり、ポン・ジュノの若き反骨精神があらわれています。

エピソード3「最悪な夜」はトイレを探す酔っ払いの放浪譚。へべれけに酔った男がバスに乗り、見知らぬ土地で降ろされます。急に催してしまった彼はトイレを求めてさまよい歩くのですが、これがなかなか見つからない。アパートの管理人にプライドを傷つけられた彼は、地下に置いてあった炊飯器に脱糞します。

そして最後にエピローグ。テレビの討論番組に呼ばれた3人の有識者。スケベな教授は心理学の権威で、ジョギング男は朝鮮日報の論説委員。そして酔っ払いは検事と、かしこまった姿で凶悪犯罪を論じます。自身を棚に上げる彼らの二重性が、ユーモラスに暴かれて物語は幕を閉じます。

本作は数々の映画祭で高く評価され、海外の映画祭にも招待されました。とはいえ、映画アカデミーを出たばかりの青年がすぐに劇映画に取りかかれるはずもなく、数年間は貧しい生活を余儀なくされたといいます。アルバイトや脚本執筆を経て、監督デビュー作『ほえる犬は噛まない』を発表するのは2000年のことでした。

「シンク・アンド・ライズ」(2003年)

『20のアイデンティティ』に収められた一編。同作は韓国映画アカデミーの創立20周年を記念して制作されたオムニバスであり、同校出身の監督20名が、それぞれ「20」をテーマにした短編を撮りました。ポン・ジュノのほかには、『四月の雪』(05年)のホ・ジノも参加しています。

漢江沿いにある売店で、父と娘が何やらもめている様子。スナック菓子を買おうとする娘に対し、父はゆで卵を強引に食べさせます。金を払わずに帰ろうとうする父娘を、あわてて呼び止める店主。彼は「ゆで卵が水に浮く」と主張する父と、真偽をめぐって賭けをすることになります。もしもゆで卵が漢江に沈まなかったら、売店の品物をすべて差し出すと約束して……。

漢江と売店の舞台背景は、後の『グエムル 漢江の怪物』で再登場します。ちなみに、店主を演じているピョン・ヒボンと、父を演じているユン・ジェムンも、それぞれ『グエムル』で出演することに。貧しい生活のなかにあるユーモアは、ポン・ジュノ監督が最も得意とするところでしょう。

「シェイキング東京」(2008年)

こちらは「東京」をテーマに3人の名監督が短編を紡いだオムニバス。ポン・ジュノのほかに、『エターナル・サンシャイン』(04年)のミシェル・ゴンドリーと、『ポンヌフの恋人』(91年)のレオス・カラックスが参加しています。

10年間にわたり引きこもり生活を続けてきた男(香川照之)。ピザの空き箱が壁一面に積み上がるなか、静かで変化のない日々を送っていました。ある日、彼はピザの配達に来た少女(蒼井優)と目を合わせてしまいます。10年ぶりに言葉を交わした女性に恋をした男は、彼女を追って家の外へと足を踏み出すのでした。

愛しく切ない引きこもりの話。ポン・ジュノは幼少期から日本のサブカルチャーに通じており、特に浦沢直樹のファンであると語っています。引きこもりや近未来の設定を扱ったのは、そんな日本文化に対するオマージュといえます。

収録作品一覧

・『ポン・ジュノ アーリーワークス』
「白色人」「フレームの中の記憶たち」「支離滅裂」
・『20のアイデンティティ』
「シンク・アンド・ライズ」
・『TOKYO!』
「シェイキング東京」