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映画『キャッツ』

「悪評は無名に勝る」ということで、2019年のワースト映画との呼び声も高い『キャッツ』を紹介したい。

この作品、予告編が公開された段階で「キャラクターのCGが気持ち悪い」というビジュアル面での批判を被ってしまった。そのため、多くの人々が否定的な先入観をもったまま公開日を迎えたのである。

たしかに猫を擬人化した独特のキャラクター造形は斬新といえるが、かといってメディアが批判していたような「不浄なポルノ」の類かと言われると、そこまで正視に堪えないものではない。少なくとも、ビジュアルに関しては許容できる作品に仕上がっているはずだ。

もちろん批判すべき点もあり、それらはすでに多くのレビューによって指摘されている。今回は判官びいきをする、というわけではないが、できる限り先入観を排して『キャッツ』の感想と解説を試みていきたい。

『キャッツ』とは


『キャッツ』は2019年に公開されたアメリカ映画だ。監督は『レ・ミゼラブル』(2012年)で知られるトム・フーパー賞レースの常連である彼だが、『リリーのすべて』(2015年)以来の新作となる。

キャストも豪華なもので、『ドリームガールズ』のジェニファー・ハドソンや『オーシャンズ8』のジェームズ・コーデン、歌手のテイラー・スウィフトらが名を連ねている。

原作はT・Sエリオットの詩集に基づいたミュージカル『キャッツ』。ミュージカル版と同じく、アンドルー・ロイド・ウェバーが音楽を手がけており、言わずと知れた名曲「メモリー」のほか、映画版のために新曲「ビューティフル・ゴースト」も書き下ろされている。

ジャニファー・ハドソンが歌う名曲「メモリー」

テイラー・スウィフトが歌う新曲「ビューティフル・ゴースト」

『キャッツ』あらすじ

そこは真夜中のロンドン。飼い主に捨てられた白猫のヴィクトリアは、"ジェリクルキャッツ"と称する猫たちの集団と出会う。彼らのリーダー・マンカストラップや手品師・ミスター・ミストフェリーズ、小太りの猫・ジェニエニドッツ。そんなジェリクルキャッツたちとの出会いを通して、ヴィクトリアは次第に自分らしい生き方を見つけていく。

ジェリクルたちはみな、年に一度の今宵に開催される「ジェリクル舞踏会」に歓喜していた。そこで選ばれた一匹の猫は天上の世界へと昇り、新しい人生を生きることができるというのだ。

だが、天上への切符を自分のものにしようとする悪党猫・マキャヴィティがあらわれ、ジェリクルキャッツたちを次々に誘拐する。そんな中、勝者を決める長老猫・オールド・デュトロノミーもやって来て、ついに舞踏会は決着の時を迎えようとしていた……。

『キャッツ』解説と考察

キャラクターの造形は言われてるほど悪くない

冒頭で紹介したように、この『キャッツ』は予告編が公開された段階から大きな不評を招いてしまった。ミュージカル版のコスチュームとは異なる、CGによって表現された猫の毛並みや、人間と動物の顔の生々しい合成感。いわば「映画らしさ」を追究したことが裏目に出てしまったのだ。

だが、それも慣れてしまえば意外と悪くないように思える。特に印象的だったのが、主人公の白猫ヴィクトリアを演じたフランチェスカ・ヘイワード。彼女は英国ロイヤルバレエ団でプリンシパル(主役級)ダンサーを務める現役のバレリーナで、劇中でも優雅な踊りを魅せてくれた。

そしてテイラー・スウィフト。セクシーな猫ボンバルリーナを演じた彼女が、新曲「ビューティフル・ゴースト」を歌い上げる姿は白眉だった。この曲からクライマックスを飾る「メモリー」への盛り上がりは、十分に評価されて然るべきだろう。

最近では『アリータ: バトル・エンジェル』(2019年)も、予告編の段階から主人公アリータ(演・ローラ・サラザール)のビジュアルが賛否を呼んだ。この作品の場合、アリータの表情をデフォルメすることで、命なきサイボーグと命ある人間の両義性が強調されていた。

『キャッツ』も同様で、このキャラクター造形はジェリクルキャッツたちの魂(劇中で天上に上がる一匹は魂を基準に選ばれる)を表現するために、トム・フーパー監督が苦心した結果であると言える。インタビューでも、技術の進歩がなければ『キャッツ』の制作は不可能だった、と語っているくらいなので、今後の映像表現に先鞭をつけた作品として評価される余地はあるのだ。

トム・フーパー流のミュージカルも理解できる、が

とはいえ、こうしたキャラクター造形だけが問題点だったとすれば、『キャッツ』がこれほどの批判を浴びることはなかっただろう。致命傷となったのは、ストーリーの起伏がなく、物語の中心軸がブレてしまった点にあるといえる。

そもそも、ミュージカル版の『キャッツ』は映画版以上に物語性が希薄だ。年に一度の舞踏会で、個性あふれるジェリクルキャッツたちが歌って踊り回るという群像劇。劇団四季によるミュージカルを観ても「ストーリーが分からなかった」と感想を漏らす人がいるくらいで、その評価も真っ二つに分かれやすい。なにせ原作はT・S・エリオットの詩集であり、韻や象徴ばかりで難解な作品であることは否めない。

ややもすると難解なこのミュージカルの映画化にあたって、おそらくトム・フーパーはテコ入れを図ったのだろう。白猫ヴィクトリアを主人公に据えることで、ストーリーに明確な筋を通そうとした。だが、そのテコ入れが結局のところ仇となってしまった気がしてならない。

というのも、ヴィクトリアが物語の起点になったことで、ほかのキャラクターたちが完全に後景化してしまったからである。舞台版の『キャッツ』を観たことがあるならまだしも、初見の観客は間違いなくヴィクトリアの方に意識が向いてしまう。だが『キャッツ』が群像劇であるという基本的な構成は変わらないため、映画が進むにつれて「物語の希薄さ」が強調されてしまうのだ。

『キャッツ』という名作ミュージカルを、映画にしかできない表現表現で再構築しようとしたトム・フーパーの意図は理解できる。『レ・ミゼラブル』で見せたような、キャラクターの表情を大写しにするカメラワークも健在だった。だが、今回ばかりはその狙いが外れてしまった気がしてならない。

『キャッツ』では「言うに言いあらわせない」(effanineffable)という表現が出てくるが、これはT.S.エリオットの造語。「言いあわらせる」(effabele)と同時に「言いあらわせない」(ineffable)。その言葉通り、映画『キャッツ』は「言うに言いあらわせない」作品となってしまったようだ。

『キャッツ』はこんな人におすすめ

  • 予告編を観て「ちょっと可愛いな」と思ってしまった人
  • 舞台版『キャッツ』を素直に楽しめた人
  • あまり評判が悪いとかえって興味を惹かれる人

おすすめの関連作品:『ドリームガールズ』

こちらもミュージカルを原作とする2006年の映画。『キャッツ』で重要な役どころを演じたジェニファー・ハドソンも出演している。

3人の黒人女性グループ「ザ・ドリームス」(ダイアナ・ロスがかつて所属していた「シュープリームス」がモデル)の成功と苦労を描いた物語。作品を飾るソウルフルな楽曲だけでも一度聴いてみてほしい。『キャッツ』にもこれと同じくらいの"ソウル"があったら……。

ちなみに監督のビル・コンドンはその後『グレイテスト・ショーマン』(2017年)でふたたびミュージカル映画を手掛けることになった。